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ふぇすてぃばる・おぶ・ばれんたいん!

「リキー、こっちですー」
 女子寮の入口からクドがぶんぶんと手を振ってくる。手を振るだけでは満足いかないのか、小さく跳ねてさらに自己主張をかさねる。そんなに頑張らなくても、クドのことならどこにいても見つけてあげるのに。
「おまたせ、クド」
 言いながら、クドの頭をぽふぽふと撫でる。クドがくすぐったそうに目を細めるのがなんだか嬉しい。
「わふぅ…お待ち申し上げておりましたです。さぁさぁ、行きましょう、れっつごー、です」
 撫でていた手をそのまま引っ張られて、僕達は歩きだした。いつもの家庭科部室へ。お互い寮暮らしなのに2人きりになれる場があるのは、幸運なことなのかもしれない。
 放課後にお互いの宿題を持ち寄って、家庭科部の部室で一緒に勉強。それがクドが日本に帰って来て以来の僕らの日課。
「ちょっと疲れましたね、休憩にしましょうか」
 一時間ほど頑張ったところで、クドはそう言って小さく伸びをした。これも、日課の一つ。
 休憩の時は、クドが毎回いろいろな飲み物を用意してくれる。珍しい紅茶やたまにコーヒー、そして時には日本茶だったり。そんなクドが今日カップに注いだのは、茶色く、少しどろりとした液体だった。
「ココア?」
 言いながら、クドの顔を伺う。ココアにしては色が濃い気もするんだけど…
「ぶー、ハズレですよ。きっと、飲めばわかると思いますよ。ささ、どーぞ」
 勧められるままに、それを口に含む。口の中に広がる味は、甘味。けれど、一滴の苦みを落としたようなその甘さは、確かにココアではなくて…
「チョコレート、かな?」
 カップを机に置いて、僕はそう言った。口の中の甘みはココアほど後に残らず、すっきりとのどの奥へと消えていった。
「はいっ、そのとーりっ!チョコレートドリンクですー。お味はいかがですか?」
 クドが、まじまじと僕の顔を見上げてくる。
「おいしいよ。今日は一段と凝ってるんだね」
 そう言って手で髪を梳いてあげると、クドは「よかったですぅ」と呟いてえへへと笑った。
「今日は、せんと、ばれんたいんでー、ですから」
 言われて、気が付いた。2月14日、今日という日が、世の男女にとって特別なイベントの日であることに。そういえば、クラスの女子達も何やら盛り上がっていた気がする。僕はいつも通り真人達と騒いでいて、気にしてなかったのだが。
「普通にお菓子を作っても、小毬さんや来ヶ谷さん達にかないませんから…」
 クドは申し訳なさそうに笑った。味見をさせてもらってそう感じたと、クドは話した。
「あれ、でも、僕は今年、誰からもチョコをもらってないよ?」
 クドの話では、クドの味見したチョコ達の中には僕あてのもあったようだが、悲しいことに今年の僕のチョコゲット率はゼロだ。リトルバスターズの皆にも一通り会ったはずだが、そんな話は全くされなかった。
「それは…実はですね…」
 僕の問いに、クドはそう答えて、自分の荷物をガサゴソと探りだした。
「皆さんから、リキと一緒に食べてくださいと、チョコを預かっているのです。えーっと、これが小毬さん、こっちが棗さん…」
 クドの鞄からは、次々とチョコが出てきて、クドが一息ついた時には、リトルバスターズの女の子全員分のチョコレートが並んでいた。
「私の分も一緒に入っているそうなのです」
 気を使っているのやらからかっているのやら。
「あ、あともう一つ…」
 クドが、ポンと手を打って、さらに鞄の中から包みを一つ取り出した。
「これは、同じクラスの杉並さんからです」
 その名前は、少し意外なものだった。杉並さんとは、一度告白されて、そして僕にはクドがいたので、お断りさせていただいたという関係である。
 その後、なんとなく気まずくて、話も挨拶程度しかしていなかったので、まさかバレンタインにチョコをもらえるとは思っていなかった。
「リキはモテモテですー」
 予想外のことに多少混乱している僕に、クドはからかうように言ってくる。
「クドは、僕が他の女の子にモテても、嫌じゃないの?」
 売り言葉に買い言葉というわけではないが、なんとなくで僕はクドにそう返す。杉並さんのことはクドも知っていて、まあチョコをもらったくらいで嫉妬もされないだろうけど、そのチョコを渡す仲介までするというのは嫌がる人もいるだろう。
「別に、他の方に人気があるくらい嫌じゃありませんよ?」
 クドは、なんでそんなことを言うのかわからない、というようにさらりと言ってのけた。
「だって、リキは私を選んでくれて、今そばに居てくれるんですから」
 言ってから恥ずかしくなったのか、クドは赤くなってうつむいてしまう。 言われた僕の方も、このセリフはなかなか恥ずかしい。
「えーっと、たべよっか、チョコ。せっかくだし」
 恥ずかしさを紛らわすためにそういって、僕は手近なものから包みを開けていった。
「わふ、こんなに食べれますかね?」
 一通り包みを開けてみると、そこにはそれぞれ個性的で、そしてそれぞれに凝った、片手では数えきれない数のチョコレート。
「今日中に全部は……無理かも?まあ、ゆっくり食べようよ」
 僕はそういって、近くにあったチョコレートクッキーを一枚つまみあげる。クドも僕にならって、手近なパウンドケーキへと手を伸ばした。
 それぞれを口に運んでは感想を言い合い、カップの中身を一口。そしてまた次のものに取り掛かる。こうして僕たちは、恋人たちの祭典を多少高カロリーに満喫したのであった。



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